一本の注射器に変えられた私たちの人生

1950年代の予防注射風景 注射をされ泣き出す子(提供:読売新聞社)
1950年代の予防注射風景 注射をされ泣き出す子(提供:読売新聞社)

C型肝炎とあわせて、わが国の肝臓がんの原因の9割を占めるB型肝炎ウイルス。その感染経路は血液や体液などに限られています。

しかし、乳幼児の集団予防接種の場において、国は危険と知りながら注射器の連続使用(打ちまわし)を1988(昭和63)年まで放置してきたのです。そのためにB型肝炎ウイルスに感染し、キャリア(持続感染者)となった人は45万人以上(厚生労働省の推計)。30代以上の方ならば、誰が感染していてもおかしくありません(あなたも?)。

集団予防接種による感染は、母子感染とならび、わが国におけるB型肝炎ウイルスの最大の感染経路となってきましたが、この方たちは当時の国のずさんな公衆衛生行政の被害者なのです。

病気の進行や差別・偏見に苦しむキャリア・患者

20160210ss 2肝臓は「沈黙の臓器」とよばれ、深刻な病状になるまで自覚症状はほとんどありません。ある日、突然の発症に見舞われ、多くの被害者が「なぜ自分が感染しているのか」と驚きました。

ウイルスを完全に体から排除する治療法は今もなく、費用や副作用の大きい治療にも必死にとりくまざるをえませんでした。検査数値が正常でも、ある日、突然、肝がんが発症するリスクもあります。

そのような治療の負担や将来への不安にくわえ、いわれのない差別や偏見などとも、キャリア・患者の方たちはたたかってきたのです。

訴訟に込めた私たちの思い

IMG_9948_21989(平成元)年に5人の患者が国を相手に札幌地裁で裁判をおこしました。平成18年、最高裁判所で原告は勝訴しましたが、国は5人以外の救済を拒みます。そのため、全国でいっせいに提訴がはじまります。

この裁判では、被害者の個別救済だけでなく、すべてのウイルス性肝炎患者が安心して医療を受けられる体制を整備することも目的になりました。損害賠償金をもらっても病気とのたたかいは続きます。それに、わが国にウイルス性肝炎の患者・キャリアが多いのは、輸血や予防接種など、過去の医療・公衆衛生行政のあり方にも大きな原因があります。私たちは同じ病気の仲間たちを忘れたことはありません。

今もすべての肝炎患者の救済をめざして

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2011(平成23)年、国は責任を認め、私たち原告団・弁護団と「基本合意」を締結。被害者に対する損害賠償金(「給付金」)の支給がはじまりました。また、治療費助成の拡充などについても、原告団・弁護団と国の協議がすすんでいます。

私たちは引き続き、当初からの2つの目的、被害者のすみやかな個別の救済(「給付金」受給など)、そして、すべてのウイルス性肝炎患者・キャリアが安心して医療を受けられる体制の整備をめざして、多くの患者さんや医療機関・行政などの関係者とも協力して活動を続けています。

 

ご自分が対象になるかわからない、とか、他の法律事務所でことわられた、という方も、どうか一人で悩まずに、長い裁判をたたかい、国と「基本合意」をむすんだ当事者である原告団・弁護団に遠慮なくご相談ください。