B型肝炎訴訟 最高裁 逆転勝訴判決!


2021年4月26日最高裁は、除斥(時効)の問題で争っていた、九州の原告2名について、除斥期間の適用を認めた福岡高裁判決を破棄し、逆転勝訴判決を言い渡しました。内容をご説明します。

目次

1、対象となる事件
2、前提となる事実
3、原告・被告 双方の主張
4、裁判所の判決(1審・2審)
5、最高裁判決
6、今後
※B型肝炎訴訟と除斥期間

対象となる事件

令和元年(受)1287号 損害賠償請求事件「B型肝炎九州訴訟」
 予防接種でB型肝炎に感染した患者(慢性肝炎・再発)が、最初の発症から20年を経過したとして、給付金の金額が除斥(時効)のため減額されるのは不当だと国を訴えた事件。
 除斥(時効)期間の適用を争う事案です。
 最初の慢性肝炎発症後、沈静化した被害者が、その後慢性肝炎を再発した場合に、再発の被害を最初の慢性肝炎発症時から20年以上経過した時点で請求することが認められるかが争点です。

弁護士

発症から提訴までの期間が20年を経過していると、除斥(時効)とされ、給付金の金額が減額されてしまいます()。B型肝炎にかかった原因も分からず、長い間苦しんだ原告さんが除斥とされるのは納得いきませんよね。

前提となる事実

上告人(原告)は2名ですが、どちらも慢性肝炎が再発した事例です。
ここでは、上告人Aさんについて前提事実を記載します。

上告人Aさん(2008.7月提訴)
1987.12.9 最初の慢性肝炎発症
2000年頃までにALT値等は正常値内となっていた。
2007.12.18慢性肝炎を再発

弁護士

発症から提訴までに20年を経過していると除斥になってしまいますから、起算点(数えはじめる最初の箇所)がAになるかBになるかで結果が変わってくるのがわかりますね。
・A~C 21年で除斥期間を経過している
・B~C 1年で除斥期間を経過していない

原告・被告 双方の主張

原告の主張

・最初の発症時において、将来低い確率(20%程度)でしか生じない再発の被害までを包括的にあらかじめ請求することは不可能。
・80%はセロコンバージョン(Hbe抗原の陰転化)により、肝炎が落ち着く。ここまでが通常生じる損害としてあらかじめ請求可能な被害である。だとすると、再発した場合においては、再発の被害をその時に請求できると解釈しないと不合理である。

被告の主張

・慢性肝炎は様々な経過をたどるので、最初の発症時に全被害が生じたと評価されるべき。

裁判所の判決(1審・2審)

第1審 福岡地裁判決 : 原告勝訴

 原告らは、B型慢性肝炎(Hbe抗原陽性慢性肝炎)を発症した後、非活動性キャリアとなって経過中、再び肝炎(Hbe抗原陰性慢性肝炎)を発症したものである。原告らにおいて、最初の慢性肝炎発症時において、その後のHbe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害をも請求することは客観的に不可能であった。Hbe抗原陰性慢性肝炎の発症時に、これにかかる損害賠償請求権が成立したものと解される。

第2審 福岡高裁判決 : 原告敗訴

①Hbe抗原陰性慢性肝炎は、例外的な症例であるとともに、Hbe抗原陽性慢性肝炎と比較してより進んだ病期にあるといえる。
②しかし、再発時の治療水準に照らせば、Hbe抗原陰性慢性肝炎の症状が重いと直ちにいうことができない。すると質的に異なり、新たな損害が発生したということはできない。

最高裁の判決

福岡高裁判決を破棄。原告側逆転勝訴!

・どのような場合に HBe 抗原陰性慢性肝炎を発症するのかは、現在の医学ではまだ解明されておらず、HBe 抗原陽性慢性肝炎の発症の時点で、後に HBe 抗原陰性慢性肝炎を発症することによる損害の賠償を求めることも不可能である。
【再発時を除斥期間の起算点とする画期的な判断!】

最高裁三浦守裁判長の補足意見
極めて長期にわたる感染被害の実情に鑑み、上告人らと同様の状況にある感染者の問題も含め、迅速かつ全体的な解決を図るため、国に協議を行うなどして感染被害者等の救済にあたる国の責務が適切に果たされることを期待する。

 

今後

 最高裁が差し戻したため、本件は、高裁で再度審理が行われます。
 今回は九州の2名の原告の裁判ですが、全国には、除斥の指摘を受けている原告さんが多数いらっしゃいます。東京弁護団でも、九州の原告2名と類似する経過を辿っている3 名の原告について、裁判を進めてきました。最高裁の判決を受けて、「除斥(時効)」の問題の解決のために東京地裁でも協議が本格化します。

弁ガッツポーズ

今後も、全国の弁護団と協力し、除斥問題の解決に向けて力を尽くします。

⇒最高裁判所の判決はこちら
⇒全国原告団・弁護団の声明はこちら

※B型肝炎訴訟と除斥期間

1、除斥期間とは?

 民法724条前段が「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから3年間行使しないときは、時効によって消滅する。」と定めるのに続け、
 同後段は、「不法行為のときから20年を経過したときも同様とする。」とする。
 後段も長期時効説が有力だったが、平成元年の最高裁判決で、中断や信義則違反、権利濫用等の反論を許さない除斥期間であり、「加害行為」から20年の経過により一律に請求権が消滅する扱いとなった。
 H16筑豊じん肺訴訟最高裁判決:遅発性、進行性の疾患の場合、「加害行為」ではなく「損害発生のときから」起算して20年以内ならよいことに。
 基本合意において、慢性肝炎(1250万円)の除斥については、300万円または150万円(損害賠償ではなく政策対応金)とされた。
 新民法724条は、2号の「不法行為の時から20年間行使しないとき」も時効によって消滅するものと明示され、2020年4月1日以降の不法行為には、除斥期間の摘要はなくなった。

2、肝がんと除斥期間

 2015.3.27基本合意(その2)で、肝がんについて、最初の発症から20年以上経過していても、再発時から20年以内なら満額(3600万円)保障されることになった。


全国B型肝炎訴訟東京弁護団

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